フォロワーからのお題でSSを書く:黒髪ロングの少女・腋・巨乳・ダルマ・膝
今から数百年の昔、大航海時代と謳われた頃の東欧に、一人の貿易商がおりました。
その男は下級貴族の生まれでしたが、己の変えることの出来ない出自を憂うことはせず、逆にそれを足がかりにしてどこまで成り上がれるか考えるような、ある種ひどく野心のある男でした。
その男が街と街の貿易から職をなして、ついには大きな船で遠くアフリカの地と商売をするようになったいきさつはここでは語らないことにして、男には一つ、おぞましいと言うべき性質がありました。
男は若い少女を己が欲の矛先にするたちがありました。金を余らせているのと、自分の商売をいいことに、遠くの地で自分の好みにあう少女を連れてきては、夜な夜な、彼女達に乱暴とも言うべき仕打ちをするのです。
南イタリアの貧しい農民の子、遠くアフリカの少女、はたまた纏足をして髪を纏めた華僑の娘など、彼の魔手はあらゆる国と民族に渡りました。彼に高潔な趣味などはありませんでしたが、彼女達はみな一様に彼の直感で選ばれたという共通点がありました。
これが頬にそばかすを散らした少年の直感であれば、さぞ可愛らしい一目惚れだったでしょう。しかし男の直感は獣欲です。もう三十も過ぎ、贅沢ばかりで腹といわず全身の肉をぶくぶくと太らせ、欲望でぎらぎらと光らせた目でもって彼女らを「選別」するのです。これほどおぞましい趣味はないと使用人達が漏らさずにはいられぬものです。
そうやって選んできてすぐは一人の少女に夢中になるのですが、たとえば彼女が身重になったり、何かしらの病を患うと(彼は周囲も本人もお構いなしに連れてくるものですから、心身に異常をきたす少女も少なくありませんでした)まるで子供が玩具に飽きるように、少しばかりの手切れ金を握らせて、遠くの村へやってしまうのです。
悪劣きわまる、金だけが取り柄の男です。その男が、また一人の少女を連れて帰ってきました。
地中海まで船で商売をしに行った帰り道、立ち寄った村にいた娘でした。
彼女を買い取りたい旨を伝えると、家族はひどく嫌がりました。曰く「彼女は神の贄であるから、人にはやれない」ということでしたが、男に風土の風習など些事でした。同じヨーロッパとはいえほとんど文明から離れているようなその村でどれほどの価値があるかどうかは分かりませんでしたが、彼は大金に値する金銀と宝石を親に握らせて、無理矢理に少女を連れ去ったのです。
名を聞くと、彼女は小さくタラと答えました。
男はたちまちにタラの虜になりましたが、船や馬車の中では、一貫して気のいい豪商を気取っていました。タラのすべらかな髪やいかにもなめらかそうな肌は、ごわごわの麻の服を着ていてもなお、いえ、だからこそ余計にきらきらと輝いて男の目を奪いましたが、決して乱暴な真似をすることはありませんでした。仕事で使っている部下をあてがい、簡単な辞書を見せて言葉を覚えさせながら、男は己の好き放題が出来る愛しの我が家へ帰ることばかり考えていました。
男はタラを連れて屋敷に着くなり、すぐさま使用人へタラを湯殿へ連れ、身なりのよい服で着飾らせるように言いつけました。
執事の命を受けたメイドの一人が、タラの背に手をやりながら、浴室の方へ連れて行きます。船には風呂はありませんが、男はタラに清潔な布を与え、毎日体を磨くように言いつけていたので、彼女は長旅の後にしてはさっぱりとしていました。
けれども、体をきれいにするのと、体を飾ることはまた違います。タラは年の頃は十三ほどとのことでしたが、発育もよい方らしく、十代後半の少女と比べても遜色のない、ぴんと張ったいい肉付きの少女です。その彼女が香りのよい石鹸で身を清め、サテンの下着をまとってベッドに横たわる姿を考えると、男はたまらない気持ちになりました。書斎で仕事を片付けている間も彼女の艶姿を想像しては、下卑た笑みを浮かべるのでした。
「ご主人様」
仕事を終え、久し振りの自宅でのディナーも終え、さてタラの待つ寝室へといそいそと男が白樺づくりの椅子から腰を上げようとした時、控えていた執事がそっと声をかけてきました。
「ご主人様が今朝連れ帰ってきた娘ですが、あれはその」
長年連れ添ってきた、男の暴挙を全て見てきた老執事がこんな歯切れ悪く話すなんて、珍しいことです。しかし、その時の男は、タラのこと、いえ、彼女の体のことばかりに思考をやっていて、そのおかしさに気付けませんでした。おれが連れ帰った娘だ何の文句がある、と執事に怒鳴りつけるばかりか、まさか貴様おれの娘に変な気でも起こしたのではなかろうなと根拠もゆかりもない罵りまで浴びせかけました。
そうなってしまうと、老執事には為すすべもありません。悪口雑言にも何も言わず、執事は頭を下げて非礼を詫びると、それ以上余計なとばっちりを食らってしまわぬようにと、そそくさと食堂から退散してしまいました。
「ふん。おれに何か言おうなど、百年早いわ」
そう言ってワインを飲み干してしまうと、男は醜い怒り顔をにまにまとした気持ちの悪い笑い顔に変えて、大股で寝室へと向かいました。
「おお、タラ、タラ、待ちわびたか」
タラは彼の言いつけの通り、きれいに身を清められ、美しいサテンのドレスに育ちのよい体を包み、ベッドの縁にちょこんと腰掛けていました。
これもまた彼のおかしな性癖の一つでしたが、連れ帰ってきた少女と最初に夜を共にする際、男は必ず彼女達に上等な服を着せました。下着で待っていては商売女と同じで品がないというのが彼の持論でしたが、それもまた異常な趣味であるのは、使用人の誰もが理解するところでした。
「おれは待ちわびたぞ。さあ、そう緊張するな」
タラの横に腰を下ろすと、男は手ぐすねを引きながらそう言いました。
タラの黒曜石みたいな大きな瞳がぱちぱちと瞬いて、そうしてベッドの下の板目を向きました。
「なんだ。言葉はもうずいぶんと勉強しただろう。タラ、ここはお前の家だぞ」
気安く言いながら、男はタラの肩へそっと手を回しました。緊張ですっかり硬くなったタラの体は、まるで石のように冷えてしまっていました。
「Gospodine、わたし、言うこと、ある、ます」
タラの言葉はひどくつたないものでしたが、その素朴さがまた、男の征服欲をちらちらと燃やしました。男は人のよさそうな笑みを浮かべ、かちかちに固まった肩をぽんぽんと叩くと、「おお、いいぞいいぞ、なんでも言え」とはつらつと言いました。
身なりのよいブラウスは、タラには少し大きかったようで、袖からは真っ白い指が少し見えるだけでした。その指がなんとも言いづらそうにこつこつと膝頭を叩きました。
「だんなさま、わたしの村、かみさま、好き」
少しばかり長い沈黙の後、やっとの声でタラが言ったのは、自分の村のことでした。
これには男もいささかがっかりしました。言葉を覚えたばかりの彼女に気を引く言葉なんてものは高望みですが、それでも、わたしきれい? だとか、作法が分からないだとか、そういう色のある話だとばかり思っていたのです。
しかし、あからさまに落胆しては、かえってタラが緊張してしまいます。すぐにことへ移せない苛立ちを腹の底に潜めて、男は大きく相槌を打ちました。
「ああ、お前を生贄にするとか言っていたな。全く、おそろしいことだよ」
「おそろしい?」
「ええと、ひどいことだろう。お前は死ぬんだぞ」
「かみさま、すばらしい」
「だからって死んでどうする!」
平行線の返事につい言葉を荒げると、タラは細い肩をびくりと震わせました。
「ああ、すまん。すまない、怒ってないぞ、よしよし……。お前が生贄にならなくて、おれは嬉しいぞ」
男は形ばかりではあるもののクリスチャンだったので、昔からの土着の、生贄を捧げるような宗教に抵抗がありました。他人の死を以て神をあがめるなど、ナンセンスだと思っていました。
彼女を安心させようと、肩に回した腕にぎゅっと力を込めた時でした。彼女の体が異常なくらいに強張り、彼が掴んでいる肩が竦められるのを感じました。まるで、男の力で肩が外れてしまったかのような、そんな手応えでした。
「わたし、いけにえ、された」
「はあ?」
「された……される、されてる、あなた、きた。言葉、あってる?」
タラのたどたどしい説明に、男は思わず笑いました。単語は少しずつ覚えたようですが、文法となるとまだ上手に使えないようでした。
「されそうになった、だな。タラ、言葉は明日からもっと勉強すればいい。さあ、ここに横になるんだ……ふかふかして気持ちがいいぞ……」
話に付き合っているのに焦れて、男はタラの体をベッドに横たえました。今まで幾人もの少女が体を強張らせ、悲鳴を上げた寝台に、タラの若いながらも豊かな肢体が投げ出され、ベッドサイドの燭台のほのかな明かりを受けて、なめらかな肌がぬらぬらと光りました。
「ああ……やっと、やっとだ……タラ、ああタラ……」
細い体の上にのしかかると、男はまずタラの桃色をした唇にむしゃぶりつきました。今まで唇をものを食べることにしか使っていなかったのでしょう、初めてのキスにタラは体をひねらせましたが、男にとってはそんな抵抗も可愛らしい恥じらいの一つでした。体重をかけて逃げられないようにしてから唇から顔を離すと、今度は石鹸のにおいも芳しいその首筋へと鼻先を埋めました。
「ああ……お前は最高だ……なんて最高なんだ……」
言いながら、男は太い指をまさぐらせ、彼女のふとももを撫でさすりました。
彼女のふとももは、ひやっとしていて、なんとも触り心地のよいものでした。いつまでもそこへ指を這わせたくなるような、すべすべとした、まさに陶器のような肌です。
自らの趣味で着せたにもかかわらず、段々とドレスが邪魔になってきて、男はたまらず彼女の体から顔を上げました。まるい乳房は幼子のようにずっと吸っていたくなる魅力がありましたが、はだけた脇にだぶつく布地が、どうにも邪魔でたまらなくなったのです。
体を起こし、ドレスを脱がせてしまおうと、ふとももの横で遊ぶドレスの裾を腹の方へ持ち上げた、その時でした。
かちん、とかたいものが男の指に触れました。まるで男性のズボン吊りのような硬い感触に、男は首をひねって手元へ視線をやりました。貴族の女性が着るコルセットならまだしも、少女のドレスに金具の類はないように見えたからです。
手元、つまり彼女の足元へ視線を落とした男は、思わず声を失いました。
膝を軽く立てられた足は、相も変わらず蝋燭の火を受けて濡れたように光っていました。光っているのは、足の表面だけではありません。足首に膝、そして鼠蹊部の辺りで、関節の真似事をした金具が、さえざえと冷えた光をたたえていました。
男は、遅まきながらに執事が言わんとしていたことを理解しつつありました。
美しい顔と、ゆたかな体つきにばかり気を取られて、男はこんなことに気付かずにいたのです。
ああ――そう言えばタラの家族の者も言っていたではありませんか。「神の贄”である”」と――。
作りが甘いのでしょう、カチャン、と金具が音を立てて、まるでいざなうように掲げられた腕が落ちてシーツにやわらかな皺を作りました。
「Gospodine」
そう言って、タラは唇をゆっくりと吊り上げました。少女でありながら、淑女ののような美しい笑みでしたが、しかしそれは、既にこの男にはおぞましい笑みに見えてなりませんでした。