お気に召すまま
「……シリル」
首の付け根に手が回る。くいと引き寄せられて、口づけられる。のしかかられて、体重をかけられた体はベッドに倒される。
そうして自分を押し倒したケイは、なんとも言えない表情を浮かべた。
眉尻は下がって、視線は泳いでいる。はて、と思いながらその襟元に手をかけ、ボタンを外そうとすると、細い手が手首を掴んだ。
「どうかした?」
「……いや、なんでもない」
なんでもない、と言いながら、手は手首に触れたままだ。伸び上がって再び唇を触れ合わせると、彼は言いづらそうに口を開いた。
「なんだか緊張してしまって」
「どうして」
「……きみが」
見つめられたかと思うと、再びふい、と視線が外される。
「ぼくを愛しているのかと思ったら、緊張して」
「なに、それ」
起き上がると、ケイはなにも言わずに後ずさりする。外しかけていたボタンを数個外して、胸に手を置くと、そこはばくばくと早鐘を打っていた。
どうやら、緊張しているのは嘘ではないらしい。
「じゃあ、やめる?」
問いかけると、彼は長い息を吐いた。落ち着こうとしているのだろう。
「……やめない。続けても?」
「うん」
ぎし、とケイの膝がベッドに沈む。続けると言ったくせに、首筋に降りた唇まで震えていた。
なだめるように、首に回した手でうなじの辺りを撫でる。
きっと彼が昔に抱いた「妻」とて、彼のことを愛していたに違いない。それなのに、今更他人の愛を自覚して緊張するだなんて、彼らしいと言えば彼らしい。
「ケイ、いいよ。……好きにして」
囁けば、安堵したように表情が和らいだ。
自分に出来ることは、きっとこうして静かに名を呼んで、全てを許してやることくらいだ。